第17章 落花
扉を開く。
薄暗い室内に、人影が少し。
アナスタシア…どこにいる?
不意に、視界に入ったウェーブかかった柔らかそうな髪。
「っ…!」
アナスタシアじゃない、でも…この子は…
知ってる。2世紀以上経つけれど…キミは初めて出会った時と同じ…
薄暗い部屋で、その子に近付く。
「ねぇ…」
俺の声に反応して、彼女が振り返る。
やっぱり…そうだ、キミは……
愛して止まなかった姿。
「っ…元気だった…?」
「えっ…?ごめんなさい、どちら様…?暗くてよく見えない…」
大好きだった声が聞こえる。
「また会えて…嬉しい…」
戸惑っている彼女に構わず、その手をぎゅっと握る。
懐かしい、この体温。
「待ってください、誰かと間違っていませんか?私、こっちに知り合いなんて…」
「間違ってない。キミに会えるなんて思ってもみなかった。」
思わず涙が溢れそうになる。すると
「大丈夫ですか?あっ、良かったらコレ…使ってください」
ポケットからハンカチを取り出し俺の瞼を優しく拭ってくれる。
俺と出会う前のキミ。
俺のことを知らないのは少し悲しい。けれど、俺に愛を教えてくれたキミは…きっと今から過去の俺に会うんだ。あの頃の俺に。
「キミはずっと優しいね。早く俺に出会って…ずっと待っているんだ、キミのこと…」
俺の言葉に、首を傾げる気配がする。
そして微笑みながら
「もう、なんのことですか?今日はなんだか不思議なことが沢山起きるなぁ…さっきもアナスタシアさんに不思議なことを言われたし…」
彼女の口から思いがけない名前が飛び出し、思わず聞き返す。
「アナスタシア?」
「はい、さっき仲良くなった女性の名前です。瞳の色が珍しくて…綺麗な女の人でした。その人にも 今日会えて良かった。 なんて言われたんです。初めて会ったはずなのに、不思議だなぁと思って…」
「アナスタシアが、居るの…?」
「えぇ、私にもう少し美術品を見ていくように、って。
なんだか慌てた様子だったので言う通りに美術館を探索していたんです。アナスタシアさんもしばらく見て回るって言っていましたよ。知っている人なんですか?」
「っ…知ってる。でも、キミはいいの…?俺が他の子のことを好きになっても…」