第16章 距離と想い
「っ…なんで…」
彼女の部屋の前で、また少し涙が出そうになる。
彼を愛していると言った彼女の瞳は悲しげだった。
俺が強引にキスをしたあと、彼女の顔は俺を求める熱で染まっていた。
「キミが…わからない」
……
翌日
重い気持ちを抱えたまま、コーヒーを飲むため食堂へ向かう。
中に入ると、何故か屋敷の皆が集まっていた。
「…みんな揃って、どーしたの?」
そう問いかけると、俺の存在に気が付いた伯爵が珍しく焦ったように口を開く。
伯爵「アーサー、落ち着いて聞いてくれ。」
深刻そうな顔の伯爵にまた嫌な予感がする。
「なーに、何かあったの…?」
伯爵「アナスタシアが、居なくなった。」
「えっ…」
伯爵「セバスチャンが、なかなか起きてこない彼女を心配して部屋へ向かったのだが…何度ノックしても返事がなく、ドアノブを回してみると鍵がかかっていなかったから中へ入ったんだ。そうしたら…」
セバスチャン「アナスタシアの気配はなく、部屋も綺麗に片付けられていました。伯爵が送ったドレスも綺麗に整えられており、机の上には彼女の字で書かれた手紙が…」
セバスチャンが手紙を取り出す。
そこには
‘皆さん 1年という短い間でしたが、このお屋敷に置いていただきありがとうございました。ここでの生活は本当に毎日幸せでした。何も言わずに出て行く失礼をお許しください。そして、沢山迷惑をかけてごめんなさい。知らないことを教えてくれてありがとう。
愛しています。 アナスタシア’
「なに、これ…」
セバスチャン「これは‘お屋敷の皆さんへ’と書かれた封筒に入っていました。そして、もう一通、宛名のない封筒が…」
セバスチャンがもう一通の手紙を差し出す。
封は切られておらず、封筒には
「これ…」
端の方に、青い目の男の子の絵が書いてある。
口元には、ホクロ。
セバスチャン「アーサーさんの絵、ですよね。」
「なんで…」
伯爵「アナスタシアからアーサーへ宛てた手紙だろう?
我々は読んでいないから、読んでみると良い。」
伯爵の言葉と共に、封を切っていない封筒をセバスチャンから受け取る。
震える手で封を切ると…