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落花

第16章 距離と想い




彼女が部屋を出てから、どれくらい時間が経っただろう。

朝の光が入り込んでいた部屋はいつの間にか暗く、月明かりで照らされている。

ソファにあった彼女の体温はとうに消えていた。

仄かに甘い匂いだけが残る。

あれからずっと座り込んでいたのだと気が付き、苦笑いを零した。


「なーに…やってんだろ」

自嘲気味な声が発せられる。

頰の涙は乾いていた。彼女の傷付いた顔が頭から離れない。


ごめんねアーサー、ダメなの。

彼女の綺麗な微笑みが浮かぶ。


「ダメって…なにが…」

俺がキミを愛すること?
それとも、キミが俺を…


あまりに都合のいい想像に、また俺は苦笑いを零す。


「とにかく…もう一度謝らないと。」

そのまま俺は自室を後にした。


……


彼女の部屋に向かっている途中、何をどう謝るべきかずっと考えていた。考えながら歩いていたせいで、気が付けばテオの部屋の近くまで来てしまっていた。


「テオに相談…なーんて、ダメダメ。何考えてるんだろ。」

いつもなら考え付かないようなことを口走るくらい、参っている。

「早くあの子の部屋に…」

テオの部屋を通り過ぎようとした時、ちょうど扉が開く。

うわ、こんな顔テオに見られたら何か言われそう…

そんなことを思い扉から出てくるであろう人影に身構えていたら…


「アーサー…」

全く予想外の人物が居る。

アナスタシア?どうしてテオの部屋から…

「!」

テオの部屋から出てきた彼女は、首まで隠れるノースリーブのワンピースを着ていた。恐らく俺が付けた痕を隠すため…だと思うけれど…

彼女の胸元は乱れていた。首まである襟が全く意味を成さず、赤い痕が剥き出しになっている。

思考が止まってしまい、何を言えばいいのかわからない。

「テオと、一緒に居たの…?」

「……はい」

やっとのことで発した言葉に、彼女は小さく答える。


暫く沈黙が落ちる。



「そっか、俺はちょうどキミの部屋に向かって居たんだ。ちゃんと話がしたくて…」

「そ、なんだ…」


また沈黙。




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