• テキストサイズ

落花

第16章 距離と想い




夢の中の彼女が涙に濡れた瞳で俺を見上げる。

これは…夢じゃ、ない。


目の前の彼女は正真正銘の生身の彼女で。

その乱れた姿が示す。俺が彼女を欲しがったこと。


夢じゃなかった。柔らかな肌は本物だった。あの快楽に歪んだ顔も本当だった。

そして、俺が赤い痕を付けた首筋に下げられた小瓶。


なにこれ、苦しい。


「アナスタシア…」

俺の呼びかけに、彼女は荒い呼吸を返すだけ。

瞳に滲んでいる涙は、どっちの…


胸が罪悪感に苛まれる。

大切にしたいと思っていたキミを、こんなに乱暴に欲しがってしまった。


「アナスタシア…俺…ごめん…」

自分でも驚くほど弱々しい声が出る。


そんな俺を、涙の浮かんだ瞳で見上げながら

「ん…だいじょぶ……少し、びっくりしたけど…」

哀しく微笑み答える彼女。


大切な彼女を傷付けてしまった。


「っ…本当にごめん」


謝ることしか出来なかった。


「気にしなくてもいいの。ごめんね、私が勝手に部屋に入ったりしたから…」


優しい彼女。こんな時まで俺の心配。

乱れた服を整えながら答える彼女。

胸元には、俺が付けたばかりの無数の赤い痕。
そして一筋血が伝っていた。


傷つけてしまった。それでもキミのこと愛おしく思う気持ちは止められない。


「違う、俺がキミのことを…」愛してしまった。キミが欲しくて堪らなかった。

俺の言葉を遮るように、彼女が問う。

「いいの!アーサーは人間の彼女と私を間違えたのよね?
ねぇ、そうでしょ…?」」

そんなワケない。

「ちがっ!」

「違わない!事故なんだよね?そう言って…」

懇願するように俯く彼女。

事故なんかじゃない。俺はキミだから…アナスタシアだから欲しがった。それ以外の理由なんてない。キミが愛しい。


「ッ…アナスタシア…、俺はキミだから…」


俺の言葉を聞きたくない、というように首を振る彼女。

そして、綺麗に微笑むキミから
残酷な言葉を告げられる。



「ごめんねアーサー。ダメなの。」


そのままアナスタシアは俺の部屋を後にした。


残された俺は、彼女の体温が残るソファで

少しだけ、涙を流した。






/ 170ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp