第16章 距離と想い
翌日の夜
「久しぶりに皆で食事でもしよう」という伯爵の言葉で
屋敷の皆が食堂に集まっていた。
もちろんアナスタシアも。
セバスの手伝いでエプロン姿の彼女が皆の前に食後のルージュとブランを配る。
アナスタシアからブランを受け取ったフィンセントが口を開く
フィンセント「アナスタシア、明日は空いている?」
「はい、フィンセントさん。明日は朝から空いています」
フィンセントの問いに、アナスタシアは笑顔で答える。
ずるい。俺にはずっとその顔見せてくれていないのに。
フィンセントに対して嫉妬のような感情を抱いてしまう。
フィンセント「本当?もし良かったら、また貴女に絵のモデルをお願いしたいなぁ。急ぎの用では無いから、貴女が空いていたらで良いんだけど…」
「私で良ければ、お手伝いします!」
フィンセントの言葉に、二つ返事で了承するキミ。
「えー、俺も明日はキミのこと借りようと思ってたんだけどー。」
つい口をついて出た言葉に、アナスタシアがびくりと反応して、フィンセントはキョトンとした顔で口を開いた。
フィンセント「そうなの、アーサー?それじゃあ絵のモデルは別の日にお願いしようかなぁ。」
「えっ…?でもフィンセントさんっ…」
アナスタシアは慌てたように俺とフィンセントを交互に見る。
「ほんとー?この子、借りても良いの?フィンセント」
フィンセント「俺のは急ぎの用では無いから大丈夫。ごめんね、アナスタシア。また今度手伝ってくれる?」
「それは勿論です!でも…」
アナスタシアは戸惑いの視線を俺に向ける。
「ありがとうフィンセント。
アナスタシア、明日は朝から空いてるんでしょー?
朝起きたら俺の部屋に来てくれるー?」
彼女を断れない状況にして約束を取り付けるなんて、我ながら狡いなーなんて思いながら
半ば強引に彼女を誘うと
「…うん、わかった。」
戸惑いの顔のまま、彼女が了承した。