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落花

第16章 距離と想い




「ねー、アナスタシア」

「ごめん、伯爵に呼ばれていて…」

そのままそそくさと離れていく彼女。



アナスタシアと二人きりで出掛けたあの日から数ヶ月。

あの夜からずっと気まずいまま…

キミに伝えたいことがあるのに、あれからずっと避けられているような気がする。

伯爵が戻ってきた後も、相変わらず食事は与え合っているけれど
前は毎日のようにしていた食事も、5日に1回程に減った

そしてその食事以外の接触がパタリと止んだ。

前はあんなに一緒に居たのに…

それに、キミがまた‘彼’を身に付けるようになった。


……


その日の夜

廊下の先から彼女が歩いてくる。

俺に気が付いた彼女は小さく会釈して、そのまま横を通り過ぎようとするが…

今が好機…と俺は彼女の進行方向を塞ぐ。


「ねぇ、待って。」

「あのっ…私伯爵に…!」

「呼ばれてナイでしょー?キミが今手空きなのは屋敷の皆に確認済み。」

俺がそう呟くと、彼女は目を泳がせる。

やっぱりねー、本当は確認なんてしてないケド…
だって、ここですれ違ったのは全くの偶然だし。鎌をかけてみただけ。


狡いとは思ったけど、こうでもしないとキミと話しが出来ないから。


「ねぇ…最近なーんか変じゃない?俺のこと避けてるみたいな。
俺、キミに何かしたっけ?」

まどろっこしいのは嫌い。ハッキリと聞いてみる。

「そんなこと…」

彼女が目を伏せたまま答える。

「そんなことあるでしょー?俺、結構傷付いてるんだけどー」

俺の言葉に、彼女の瞳が揺れる。

キミは優しいから、自分のせいで誰かが傷付くのは耐えられないはず。

我ながら酷いことしてるなー、と思いながら彼女の反応を待つ。


「わたし…」

言い淀む彼女。なにかを考えているみたい。
そしてそのままおずおずと顔を上げて、俺と目を合わせる。

目が合うの、久しぶりだなー。

ローズピンクの瞳と、何か言いたげな表情

「ん、なーに?言って。」

小さく息を呑み、彼女が口を開く。


「アーサー…ごめんなさい。」

「それは何に対して?俺への態度…?それとも…」

嫌な予感がする。


「っ…!ごめん、もう行くから…」


俺の問いには答えず側をすり抜けて行く彼女。


その背中を追うことは出来なかった。







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