第15章 アーサーside
「…うわー、やられた」
そう零すと、彼女が満足気に笑う気配がする。
ホント、そーいう可愛いの…反則だよね
「もー、今度やったらお仕置きだから」
照れた顔を悟られないよう呟くと…
「なんでっ!?いつもアーサーが意地悪してくるんじゃない!」
「俺はいいのー」
「そんなの不公平だと思います!」
そんな掛け合いがおかしくて、二人同時に吹き出す。
「ふふっ!なんだか今日はアーサーの珍しい顔が沢山見られた気がする。」
楽しげに微笑む彼女。
「俺もキミのかわいー姿を沢山見せてもらったよ。
さっきの声、可愛かったなー?」
「やだ!さっきのは忘れて!」
真っ赤な顔で俺の腕を叩こうと立ち上がる彼女。
「えー、どーしよーかな」
また二人で笑い合う。
その時不意に馬車が大きく揺れて、立ち上がった彼女がバランスを崩してよろけてしまう。
「きゃっ…!」「危ない!」
よろけて倒れ込んでくる彼女を抱きとめる。
急に縮まった距離と、腕の中に収まった彼女の髪からシャボンのいい香りがする。
「ごめんねアーサー、ありがとう…」腕の中の彼女が顔を上げる。
至近距離で交わる視線。唇が触れ合いそうな程、近い
「……。」
そのまましばらく見つめ合う。二人の間に沈黙が落ちる。
おかしい、毎晩食事のたびに近付いているのに…
なんだか、すごーくドキドキする。
彼女の甘い匂いに酔ってしまいそう。
ふと触れ合った胸元を見やると、彼女が絶えず身に付けていた‘彼’の灰が見当たらないことに気がつく。
「アナスタシア…?今日は‘あれ’持ち歩いてないの?」
沈黙を破って問いかけた。
「…あ、うん。今日はアーサーと一緒に居るから…」
遠慮がちに零された言葉に胸が熱くなる。
ねー、それって期待してもイイってこと?
思わぬ言葉に嬉しくなった。
だってそれって、今日は俺のことを一番に考えるってことデショ?
なにそれ…すごく嬉しい。
「っ、そんな可愛いコト言うと…俺、勘違いしちゃうよ?」
「っ、へんな意味じゃないから!ただ、一緒に居るのに他のことを考えるのは失礼だと思って!だからっ…」
アナスタシア、頰赤い。
あーあ、キミのこと諦められなくなるじゃん
俺の気持ち、ちゃんと伝えたい。
馬車はもうじき、目的地に到着しそうだった。