第1章 手紙
「私目からもお願い申し上げます」
『…こんのすけ!』
「主様が頭を下げているのに、私が下げない訳にはいきませんから」
『ありがとう』
張りつめる空気。
それを破ったのは、二人の足音だった。
「二人共。頭を上げてくれんか?」
私とこんのすけはそっと頭を上げる。
地面から視界が開けると、陸奥守が薬研に支えられながら近寄って来ていた。
「主…さっきはすまんかった。今更で、失礼なのは分かっちょる。主、どうかわしを治してはくれんか?」
『勿論です!えっと、じゃあ……』
この状態の陸奥守さんを動かすのは難しそうだ。
確か、手入れ部屋を使う以外に治し方があった筈。
『こんのすけ…』
「ええ、そうですね。私もそれが良いと思います」
エスパー!?と驚いたが、今は心にしまっておこう。
こんのすけにその方法を聞いている間、陸奥守を薬研が支え、玄関の段差にゆっくり座らせた。
痛みが生じたのか陸奥守が唸る。
私は陸奥守さんの真正面にしゃがむと小さく息を吐く。
『では、陸奥守さん。少し触りますが良いですか』
「あぁ」
そっと陸奥守の手に触れた。その時、また陸奥守が小さく唸り思わず手を引っ込める。
しかし陸奥守は"構わん…"と続きを促した。
『ふぅ……』
気を取り直して、もう一度慎重に両手を添え目を閉じた。
そして、自分の神力が相手に向かって流れるイメージをする。それに加え、傷がどんどん塞がって行くイメージも。
すると、どうだろう。自分から陸奥守へと力が流れていく感触の様な物を感じた。うっすらと目を開けると、陸奥守の切り傷が徐々に消えていくのが見えた。
本当に…治っていく…
感心しながらその様子を見ていると、陸奥守が"もう、ええぞ"と呟き、添えていた手を放した。
すると、ふっ…と身体の力が抜けた。
咄嗟に陸奥守が腕を掴んでくれたお陰で倒れずにはすんだ。
「こがなんで、げに(本当に)治るんじゃな。主、ありがとう」
『…い、いえ。当然の事をしたまでです』