第1章 手紙
「……大丈夫ですか、主様?」
『ん…大丈夫。ありがとう』
私がふらつく様子に気付いたこんのすけが、心配そうに声を掛けた。それに笑みを返し、視線を陸奥守へと移した。
『陸奥守さん、他にも重症の方っていらっしゃいませんか?居るなら治してあげたいのですが』
「…重症なやつなら手入れ部屋におる。わしが案内しちゃる」
『ありがとうございます』
じゃあ、と立ち上がり持ってきたキャリーケースに手を伸ばそうとするが、スッと薬研に取られてしまった。
「荷物と羽織りなら、俺っちが大将の部屋まで持って行く。だから、大将は重症の奴らの所へ行ってくれ」
『…ありがとう。陸奥守さん、案内の方お願いします』
「任せちょけ」
『あ、薬研はちゃんと目を冷やしてね』
「分かった」
お互いに頷き合い、陸奥守さんとこんちゃんと私は手入れ部屋へ。薬研は私の部屋へと別れた。
私達は重症の人達の所に、小走りで向かう。玄関から其ほど遠くない所に手入れ部屋はあった。
陸奥守が部屋の襖の前に立ち、此方に目配せすると開ける。
部屋には布団に横たわっている人が二人と、血の匂い。
「歌仙、御手杵、新しゅう来た主を連れてきた。二人の傷を治してくれるそうや」
「……ん、陸奥守か。新しい、主?」
「…はは、そりゃ助かる…ッ…もう、身体中が痛くて動けねぇんだ」
『任せて下さい』
力強く頷き、二人に触れても良いか聞こうとした時こんのすけがそれを遮った。
「主様、それ以上力を酷使すると倒れてしまいます。此処は手入れ部屋です。札を使いましょう」
札とは、依頼札の事。この依頼札に神力を流し込み、それを人形に貼ることで私の代わりに働いてくれるのだ。しかも、札に注ぐ神力の量は少しで良いという。
つまり、直接神力を流して治療を行うよりも、札を使っての治療の方が使う神力は少なく済むという訳だ。
触れての手入れはあくまでも応急措置。
『そうだった。でも、札が…』
「札なら、確か彼処の棚に入っちょったはず!」
と、陸奥守が部屋の棚の一つを開け札を取り出した。その札は真っ白だった。
「主様、神力を注ぐのです!」
こんのすけの言う通りに、真っ白な札に神力を送るイメージを浮かべる。すると、真っ白だった札に達筆な文字が浮かび上がった。