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【尾形】うちの庭が明治の北海道につながってる件【金カム】

第6章 月島軍曹2



 しかしポカポカ陽気と裏腹に、月島軍曹の顔は沈んでいる。
 
「……連絡がありました。鶴見中尉殿が近日中に、夕張に来られるそうです」

 マジかよ!!

「江渡貝の作業の進行状況確認、そして梢さんのお見舞いに」

 葬式かという沈痛な面持ちだった。

「帰還は数日内にしましょう。今は私と前山が、江渡貝の護衛に当たっている。
 あなたは歩けるようになったし、私に殺されかけたから、逃げる理由はある。
 我々が江渡貝を見ている間に突然失踪しても、不思議では無い」

 そこまでしなくてもいいのに、どこまで泥を被るつもりなのか。

 いつかは来るお別れも、頭の中では分かってはいた。
 でも以前と比べ、苦いものが胸に去来する。

 私たちは時々身体を重ねていた。

 最も、部下や護衛対象が一つ屋根の下。
 罪悪感に苛まれつつの情交ではあったが!

 …………何か、とんでもない女じゃね? 私。

 それはさておき。

「鯉登少尉も前以上にうるさ――あなたを旭川に来させたがっている」
 何か言いかけたし。
「中尉殿が来られる前に荷物をまとめ、早いうちに戻りましょう」

 だが鶴見中尉が来るなら先送りは出来ない。
 
「梢さん」

 名前を呼ばれ、振り向くと月島軍曹の唇が重なった。

「忘れません」

 月島さんは、それだけ言った。

 だが私は忘れていた。鶴見中尉という男のことを。

 …………

 よく晴れた朝だった。

「鶴見さーんっ!!」
「江渡貝くぅん!!」

 感激して鶴見中尉に抱きつく江渡貝。
 情熱的な抱擁(ほうよう)に応える鶴見中尉。

 あー。桜がきれいだなあー。

 私は現実逃避して空を仰ぐ。
 月島さんは呆然としていた。

 ここは江渡貝邸の前。目の前にいるのは鶴見中尉、鯉登少尉を始めとした第七師団の皆さん。

 ……近日中とは言ったが昨日連絡して、今日到着。Amaz○nかあんたは。
 呼び鈴が鳴り、表に出たら鶴見中尉がいたのだ。心臓が止まるかと思った。
 絶対、私が逃げる可能性を見越してただろ!!

 そして。

「何だ貴様は! 鶴見中尉殿になれなれしい!!」

 二人の抱擁にギリギリと歯ぎしりし、今にも江渡貝を斬り殺したそうな鯉登少尉。

 なぜ私は、おっさんず何とかみたいな光景を見させられているんだ……。


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