第1章 まず浮気をされた話

岩泉side


泉 沙奈

その名前を知らない生徒は
いねえんじゃないかってくらい
とりあえず沙奈は美人で有名な奴だった

凛としてるかと思えば
気の抜けたように笑うあの目元

気弱そうに見えて案外意地っ張りな所

成績優秀なのに運動神経はすこぶる悪い所

まあ俺から見てもこんくらい思いつくんだし
そりゃあ同じクラスだったりしたら
この倍は魅力的な所を挙げれるんだろう


そんな泉沙奈を惚れさせた男

名は及川徹

この名前も知らない生徒は居なかった


あの２人が付き合った時は
校内新聞に載ったくらい学校が揺れた


揺れに揺れまくった


泣きすする女共と泣き叫ぶ男共
校内新聞が掲載されて
２週間はその状態が続いた

そんくらい
あの２人が付き合った事は大ニュースで


だから、

だから、

及川が浮気をした事だって
注目されない訳が無かった


｢おう沙奈、また及川探しか｣


体育館の点検で珍しく部活がなかった
9月の水曜日

額に少しだけ汗を浮かべながら走る沙奈を
廊下で呼び止めた


『あ、はじめ先輩
そうなんですよまたどっかいっちゃって ..
今日は一緒に映画に行く約束してたんですけど』


困ったように笑う沙奈の笑顔を見たのは
あの日で15回目くらいだっただろう

そのくらい及川が、
いきなり姿を消すことが頻繁になっていた


｢困った野郎だな
俺も今日は暇だから、一緒に探すわ｣

『そんな！大丈夫ですよ！』

｢いいっていいって俺も及川に用があるしな｣



『なら .. お願いします』

と申し訳なさそうに笑う沙奈を見て
及川の幼馴染っていうこの立場に初めて感謝した


そして2人で及川を探し始めて20分が経った

その時だった



｢ね？信じて美優
俺は沙奈より美優のほうが好きだよ｣



あいつの甘ったるいあの声が
シンとした放課後の廊下に響き渡った