第2章 射抜く瞳
「沙奈、さん」
『ッ .. びっ、くりした』
「あ、いや、ごめん」
申し訳なさそうに呟く彼の名前は ..
『えっと影山飛雄くん、だよね?』
「知ってたのか」
『 ... うん、まあね』
( ねえ沙奈聞いてよ! )
( 新しくバレー部に入ってきた新入生がちょーーー生意気でさ! )
( なぁんかすました顔してて腹立つんだよねぇ )
( え?名前? ... なに、気になるの )
( 別にッ 及川さんはこんな事で拗ねませんもんね〜 )
( 影山飛雄、っていう黒髪の生意気そうな顔のやつ )
( ぜっったい!近づいちゃ駄目だからね!)
嫌だな、ほら、
すぐ思い出すじゃん
どんな景色もどんな会話も
彼との思い出を蘇らせていく材料でしか無い
徹と別れた9月からずっとそうだ
目の前に影山くんがいることも忘れて
私は校舎裏にある大きな桜の木を見詰めていた
その時だった、
あの視線を感じたのは
『ッ ... !』
ゾクリ と背中に何かが走る感覚がして
慌てて向けたその視線の先には
熱っぽい目で私を見詰める影山くん
「なあ、沙奈」
『な、なに』
「俺、沙奈のこと好きだ」
影山くんはそう私に告げると
ゆっくりと私に近づいてくる
あ、
これ、
絶対逃げなきゃいけない
頭の中では分かっているのに
一度混じり合ってしまったその視線から
私は何故だか目が離せなくて
影山くんは片手を私の頭の横に手をつき
もう片方の手を自分の膝の上に置いて少し屈んだ
「ありがとう」
( なにを? ) そう聞き返した筈の言葉は
声にならずに消えていく
影山くんは、
優しく私にキスをした