第2章 射抜く瞳
飛雄くんの前髪が私の目元を掠めた
サラサラとした黒髪が少しくすぐったい
相変わらず近くにある端正な顔は
キュ と眉を切なげにひそめている
『近い、よ』
「嗚呼、近いな」
『先輩達来ちゃうよ』
「嗚呼、来ちまうな」
うわ言のようにしか返さない飛雄くんの目は
相変わらず私を捕らえて離さない
私は知ってる
目を合わせてしまったら、
きっと元に戻れないってこと
その射抜くような目が、
私を捕らえていることに気づいたのは
中学校3年生になる、春のことだった
徹の卒業を今か今かと待ち望んでいたあの季節
私は卒業証書を片手に持った徹が、女の子達に囲まれている所を渡り廊下の上から眺めていた
相変わらず人気者なんだな。なんて、冷静に見ることが出来ているのはもう彼に未練が無いからだろうか?
それともなかなか連絡がつかない彼の行動に、何か察するものがあったからなのか
考えたって分からない
考えたって、仕方ない
別れて、分かったことがある
2人の問題を解決しようとしたり、なかなかつかない気持ちの整理を頑張ってみようとしたり
そういう辛くて苦しいようなどうしようもなかった時間も、私達が想い合っていたからこそ成り立つ苦しみだった
関係が終わってしまえば、
そんな努力をする必要も無い
悩むことも苦しむこともなくなった筈なのに
それなのに
徹の手が後輩であろう女の子の髪を撫でるのを見て
( いいな )
とても、羨ましかった