第7章 向日葵に捧ぐ恋文[光秀]
ーーーーードンッ
「うっ……ぁっああ……」
薄暗い空き家の中。
足を引きずりのたうち回る男と、それを見下ろす冷ややかな琥珀の目。そして……ほんの少しの火薬の匂い。
「……な、ぜ…だ……」
白銀の髪はその琥珀の光を隠す。髪から覗く口元はニヤリと妖しく歪められた。
「くっくくく……。何故か、だと?……俺が本気でこの謀反に手を貸すと思ったのか?……最初からお前たちは信長様の手中にあったということだ。……命だけは助けてやる。まぁ、生き延びた先にあるのは拷問だがな……。」
ドゴッ
「うっ、ぁっ……………。」
暗闇の中で唯一、その白銀の髪だけが月明かりを受けて輝いていた。
******
安土城 廊下
「光秀ぇぇ!お前、昨日の夜は何処にいた?!」
朝から、秀吉がうるさい。
「密会をしていた。」
「は、はぁぁぁ?!おい、どういうことだ?!」
「…ふっ。……冗談だ。」
秀吉は本当にからかい甲斐がある。
「…はっ?おい、ちょっと待て光秀ーーー。」
どんっ
「うわぁっ、ごめんなさい!」
何かにぶつかり、目線を下ろすと
「なんだ檸檬か。すまんな。何か小動物にでもぶつかったのかと思ったぞ。くくくっ……。」
また一人、俺のおもちゃがやってきた。
とは言っても最近、俺はこいつに何か違う感情を持っているらしい。……気づかないほうがいいもの、だったのだがな。
「あ、光秀さん、秀吉さん!おはようございます。」
檸檬は、にっこり笑って挨拶をする。
「あぁ、檸檬。おはよう。」
秀吉が笑顔で返した。
「……で、光秀さんは今の、嫌味ですか?!」
そう言って、檸檬は目尻を少し釣り上げて俺を睨む。
「いや、可愛いと言ったんだ。……子だぬきみたいで。」
「たぬき……。もうっ、光秀さん、自分が身長高いからって!もういいです。……二人とも何してたんですか?何か揉めてたみたいでしたけど。」
「いや、こいつがな……」
「俺はもう行く。信長様に用がある。」
「おい、光秀待てっっ!…………はぁ。」
俺はそんな秀吉の制止も聞かず、足早に天守へと向かう。
廊下の曲がり角。ちらりと横目で檸檬を見れば、秀吉に満面の笑みを向けて楽しそうにしゃべっている。