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氷華血鎖【鳴門】

第35章 一部・旅行


生憎宿をとったのは半刻程前で夕飯の懐石には間に合わなくて、これまた致し方無く小料理屋に入った。未成年だしどうかと思ったけど、あまりそう言うのは厳しくないみたいで難無く通された。



『あの子達大丈夫かしら…皆に迷惑かけてないと良いんだけど…』

「二人共賢い。その辺は要らぬ心配だ。問題は…」



保護者達の方だ、とイタチさんは小さく溜息を吐く。保護者達かぁ…保護者達ねぇ…うん、確かに。



『「変な事吹き込んで無いと良い…!」』



被った言葉。何かを企んでそうってのは、やっぱりイタチさんも気付いていたみたい。何を企んでるのかは知らないし…あまり知りたくは無い気はするけど。



「お二人さん仲が良いねェ!夫婦かい?」

『え?あぁ…違…』

「いやぁ…若いってのは良いねェ!応援したくなる」



勝手に話かけてきて勝手に話を進める酔い人が鬱陶しくなって席を立つと更に食いつく様に話し掛けてくる。



「もう帰っちゃうのかい?」

『ええ』

「じゃあ折角仲良くなれたからお嬢ちゃんにコレやるよ」



と手渡されたのは掌程の大きさの包装袋。



『いえ、結構です』

「良いから良いから!旦那と仲良くやんな!」

『だから違………はぁ…』





※※※





宿に戻るなり部屋へ行けば既に女将が褥の用意をしていて三つ指を付きながら頭を垂れて"ごゆっくり"と言い残して部屋を出て行く様を見送っているとチヅルは先程、店の者から押し付けられた小袋を怪訝そうな顔付きで見ていた。



「それは?」

『薬みたい。このアタシに薬を押し付けるなんていい度胸してるじゃないの』



袋から出した錠剤状の薬を一粒摘むと暫し凝視して、まっさらな巻物を取り出すと術式を書いて指の圧力だけで粉砕して中央に振り掛けると印を結ぶ。



「何の薬だ?」

『分かんないから成分を調べてるところ』



術式の字が変化していく様を瞬きもせずに見詰めるチヅルは次第に頬を茜色に染めて行く。



「チヅル?」

『だっ…だめだめだめ!これは駄目!』



勢い良く巻物を閉じると余った薬と一緒に背に隠す。



「………」

『か、火遁で燃やしてくれると有難いなぁ』




















→to be continued.
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