第29章 一部・愛
『男なんて大嫌いよ』
もう一度、確認する様に呟くと頬を涙が伝う。
『でも仕方無いじゃ無い………愛しちゃったんだから』
「………チヅル…」
※※※
イタチさんを失いたくないと思った瞬間お祖母様の言葉を思い出した。ずっと思い出せなくて心に引っ掛かってた事。
"最後はね…大切な人を守る為の力だよ"
"たいせつなひと?"
"未来が見えるんだ。大切な人の未来"
"みらい…"
"一人の男に惚れて愛す。これが条件だよ。お前にはこの目を持って欲しくないが…最後まで覚醒したら大切な人を守る力になる"
"………"
"何れお前はこの目を持つ事になるだろう。そしたらその目で愛する人達を守っておやり"
"うん!わかったよ、ばばさま!"
今まで見た瞬間的な絵も不思議な予感も前兆だったんだって思った。つまりアタシはだいぶ前から彼に惚れていたんだろう。
蹲る誰かも血に染った誰かの手も横たわる誰かも、この数分の間に全部実現した。それがイタチさんだと言う変な予感も当たってた。
もっと早く気付けば良かった。そうしたらここまでにならなかったのに。
※※※
『………っ…禁術使い過ぎて…流石にもう限、界…』
力無く倒れ込むチヅルを抱き留める。雪も止んで晴れてきた空から覗く月明かりがチヅルの顔をより一層、青白く見せて嫌な汗が背筋を伝う。
「安心しろ。貧血だ」
「!」
声がした方を見ると瓦礫の下敷きから脱した兄であるユキトが弟、シズルを下敷きにする瓦礫を退けながら、ぶっきらぼうに言う。
「殺るなら今だよ。シズルも気を失ってるし俺ももうチャクラも無いし戦える身体じゃない」
「いや…」
腹違いと言えど兄弟。チヅルの見てないところ知らないところで勝手に兄弟を手にかける訳にはいかない。
「………君の悪名は知ってるけど噂とは違って随分と甘いね」
「………」
「まぁ良いさ。早くチヅル様を安全なところで休ませてやってくれ」
「お前も…随分と甘い様に見える」
「俺達はチヅル様を殺したい訳じゃない」
殺したい訳じゃ………無い。
→to be continued.