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氷華血鎖【鳴門】

第27章 一部・正体


震える空気。響く筝の音。今日の筝の音色は昨夜の様な優しさと暖かさは無い。激しく暗く冷たい音だった。



「チヅル」



今夜、始末するつもりなのだろう。俺はどうすべきか。下手に手を貸せば邪魔になるかも知れない。だが放っておく事も出来ない。



-ドォオオン-



「!」



突如として轟く爆音。廊下から悲鳴が聞こえ騒がしくなる。部屋の格子窓から外を見ると街人達が必死で街の外に逃げる様が見えた。



-ばさっ-



装束の外套を羽織って部屋を後にする。





※※※





「ぐ…霧羽…お前まさか…」



苦しそうに横たわるシズルの胸倉を掴んで目を合わせる。金色の双眼に映る自分の顔は大層醜いものだった。でもそんなのはどうでもいい。



『どうやって生き延びたのか…今まで何をしてたのか見せてもらう』

「くそっ…」



-すう…-



深く深く沈んで行く。辿り着くのはあの日の惨劇。
アタシの起こした津波に飲み込まれ建物が崩れる際に二人は瓦礫によって傷を負う。だけどその血が結晶化し二人の防御となったけど…当時、力の無かった二人は意識を失い冷たい闇の海底に沈む。
それから暫くはずっと真っ暗な闇の中だった。どのくらい意識が無かったのかは分からない。でも目が覚めると…ぼんやりと誰かの影が見える。そう…それはまるで…蛇。



『………大蛇丸』



-ピシッ…-



『!!!』



天井に亀裂が入る。



-ドォオオン-





※※※





ちょっと派手に壊し過ぎたか。シズルを抱えて崩れてくる瓦礫を避けながら外に出る。



「シズル!シズル!」



ペチペチと頬を叩いて見るが意識は戻らない。外傷や内傷は見当たらない…やはり幻術か。シズルは幻術には滅法弱い。
おかしいと思ったのはシズルが見世、俺が綱手の情報収集に出て別れてちょっとしてからだった。離れた距離でも僅かに聞こえて来た筝の音色が恐ろしく狂気に満ちていた。



「解っ!」

「ぐ…ぁ…兄者…」



俺はこの狂気に満ちた音を知っている。チヅル様のお母上が亡くなられた後の葬儀の場で…チヅル様が筝で奏でた鎮魂歌の音と同じだった。



「すまねぇ兄者…油断した」

「無理も無い。あの方が俺達より何枚も上手なんだ」



ガラガラと崩れる建物。
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