第3章 手紙
コソコソと裏庭に向かった俺たちは、ニノたちに見つからないように距離を取って大木の陰に隠れた。
そっと覗き見た先には、ニノと翔くんの後ろ姿とかなりひきつった先輩の顔が見える。
「ぶふっ···あいつら···っ···」
ニノたちが手を繋いでいることに気付いた時点で潤は笑い始めていて。
「ちょっと潤!静かにしてよ!気付かれちゃうじゃん!」
「だってさぁ、告白場所に違う男と手繋いでいくとか···」
ヒソヒソ声をひそめているけど、なかなか潤の笑いは収まらない。
「しかも相手のあの顔、翔のやつどんな表情してんだか」
確かに先輩の顔は可哀想なくらい怯えていて。
本当に翔くんどんな顔してんだろ。
そのまま様子を見ていたが、先輩は結局何も言わずに去っていった。
なんとも哀愁漂う後ろ姿だ。
先輩に見つからないように身を隠してやり過ごして、まだ何やら話しているニノたちに気付かれないうちに俺たちもその場を離れた。
「なんか色んな意味で気の毒だったね」
先輩には心から同情するけれど
「あー、でも良かった!」
ニノが怖い思いも嫌な思いもしないで済んだことに安心してしまう。
「智ってさ···」
潤が何か言い掛けて、すぐやめてしまう。
「いや···うん、良かったな」
何かなとは思ったけど安堵の気持ちが大きくて。
すぐに気にするのをやめた。
教室で待っていたら、ニノが翔くんと手を繋いで戻ってきた。
それを見た潤がまた吹き出したけど、無視無視。
「おかえり、ニノ」
「智!待っててくれたの?」
ニノはちょっと驚いた顔をしたけど、翔くんと繋いでいた手をほどくと嬉しそうに駆け寄ってくる。
そのまま抱きついてきたから、受け止めてやった。
「大丈夫だった?」
「うん!あのね、なにも言われなかったんだよ」
ニノが裏庭でのことを話してくれる。
もちろん見てたから全部知ってるんだけど、知らないフリして聞く。
裏庭に向かう前とは違う憂いのない笑顔に俺も嬉しくなった。