第3章 手紙
覚悟してじっと返事を待つけど
「いや···あの···」
先輩は魚みたいに口をパクパクするだけで、意味のある言葉を喋ってくれない。
「先輩?」
「······いや、ごめん···なんでもない···時間とって悪かった」
結局先輩は何も言わないまま、その場から立ち去ってしまった。
何だったんだ?
足早に去る先輩を見送りながら、ちょっと呆然としてしまう。
俺的にはすごい勇気出して頑張って来たのに、なんてちょっと拗ねた気分にもなる。
でも何にもなくてホッとしたっていうのが本音かも···一気に体の力が抜けた。
モヤモヤは残ってる。
なんで呼び出されたのか分からなかったから、手紙の謎も解けないままだし。
でもさ···
冗談を言って笑う翔ちゃんを見ながら、さっきの先輩はやっぱり翔ちゃんファンの人だったんじゃないかなって思う。
だってやたら翔ちゃんのこと見てたよね。
チラチラと先輩の視線が向かうのはずっと翔ちゃんだった。
翔ちゃんがいたから俺に言いたいこと言えなかったのかも。
もしかしたら、この先また呼び出されたりするのかなぁ。
その時は1人で行けるかな···
まだちょっと自信ないな。
まだ何も起こってないのに、勝手に想像して憂鬱な気持ちになりかけてたら
「帰ろっか」
翔ちゃんがにっこり笑って、俺の手を引いて歩き出した。
それだけで気持ちが浮上していくのが分かる。
俺って単純だな。
でも好きな人と手を繋いで歩いてるんだもん。
翔ちゃんは人助けとしか思ってなくても、俺は幸せだもん。
先のことは、またその時考えよう。
自分に甘い気がするけど、今日は智の言う通りこうやって呼び出しに応じて裏庭に来れただけでも、一歩前進したと思おう。