【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第5章 叶わなくても
突然脈拍が早くなり、頭を掴まれて強い力で振り回されているような感覚に陥った。
「・・・はぁ、はぁっ」
ぐるぐると目が回る。
息苦しくて熱い。
喉がカラカラに乾いて声が出ない。
記憶が、消える・・・?
少しずつ意識が遠のいていく。
アッシュとの図書館での出来事も、スキップとの日々も、遠い夢の中の出来事のようだった。
きっと、私には贅沢すぎる日々だった。
別に悲しむことじゃない。
元の自分に戻るだけ。
だけど二人に会うことはもう叶わなくても、せめて“さようなら”と“ありがとう”を伝えたかった。
たとえ・・・それすらも叶わなくても、ずっと覚えていたかった。
「お願いします・・・どうか記憶は、消さないで・・・・・・・・・もう、逃げたりしないから・・・・・・」
声にならない声でつぶやいた。
“R”は、返事の代わりに顔を歪めて笑った。
そして身体中の神経が過敏になった私の首筋に、ゆっくりとキスをした。
絶望の中、私は意識を失った。