【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第5章 叶わなくても
目を合わせようとしない私に苛立ったのか、“R”が白いパーカーを下着ごと上に押し上げて服を脱がせた。
昨晩“R”に指示されて行ったホテルに居たのは、どこにでもいるような善良そうな初老の男性だった。
首を絞められるのは初めてじゃなかった。
けれど三度目に気が遠くなった時、死の恐怖を感じた。
夜明けを迎えても解放されずどんどんエスカレートしていく行為に、生まれて初めて死にたくないと思った。
気づけば私は着ていた服を掴んで飛び出し、アパートへ逃げ帰っていたのだった。
「・・・言ったはずだ、お前に逃げ場は無いと。それともあの男に事情を話して助けでも乞う気だったか?」
「あの男・・・?」
彼の言葉に、私はその日初めて反応した。
「あの金髪で眼鏡の彼だよ。あんな育ちの良さそうな青年をどこで誘惑してきたんだ?まさか図書館の中でじゃないだろうな?」
アッシュのことを言ってるのだと、私は驚いて“R”の目を見た。
彼は上半身を剥き出しにされた私を冷たい表情で見下ろしている。
「所詮お前に出来るのは、この身体を使って誘惑することぐらいだろう。この私が教えてやった色々な方法でな」
「何のことだか・・・わかりません」
「とぼけても無駄だ。街中の監視カメラを確認することなど私には造作もないことなのだよ。だからこそ、お前を今日まで自由にさせていた。けれどそれも終わりだ」
“R”は私の穿いていたものも脱がせ、全てをゴミ箱に投げ捨てた。
「お前はこれからずっと籠の中の鳥だ。服も与えられず鎖に繋がれたまま、死ぬまでここで飼ってやる」