【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第4章 Hello, goodbye
時刻はまだ14時前だった。
端の席に行くと、リサは来ていなかった。
いつも何時に来ているかなんて聞いた事がないが、これまでの様子から15時には来るような気がしていた。
俺は自分が必要な本を書棚から集めてきて、いつもの席に座った。
15時になってもリサは来なかった。
そして、16時になり、17時になり、18時になった。
喉が渇いて、一度外へコーヒーを買いに行った。
しばらくして戻って来てもリサはいない。
そのうち、誰か別の人間がそこへ座ってしまった。
もう、外は真っ暗だった。
今日は来ないのかも知れない。
何か用事があるのかも、もしくはもうテキストが終わりかけていたから教えて欲しいところも無いのかも知れない。
だけど確か、理科もわからないところがあると言っていたな。
それに何より、なにも言わず突然来なくなるようなやつなのだろうか。
先週見せた首の痣と、異常なほど動揺していたリサの姿が脳裏をよぎった。
スマホをポケットから出した。
連絡先なんか知らないのに。
心配する義理もないというのに。
・・・なんでそもそも俺はこんなにリサのことが気になるんだろうか。
リサが、あんな目をするから。
寂しそうな目。
今にも泣き出しそうな目。
絶望を宿した目。
俺が初めて名乗った時の、マフラーを巻いた後の、嬉しそうな目。
俺は閉館時間を待たずに駆け出した。