【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第1章 プロローグ
「・・・なんでだよ。知っても仕方ないだろ?」
アッシュが不思議そうに英二を見た。
「それでも知りたいんだ。アッシュ、君の事をもっと知りたい」
「なんだよそれ、気持ち悪いな。ナンパかよ」
「ええ!?なんでそうなるんだよ。友達なら相手のことをよく知りたいと思うのは普通のことだろ?」
「普通、か?」
英二は真剣そのものだったが、それでもアッシュはいまいち理解できないといった表情で肩をすくめてみせた。
「ねえアッシュ、まだ夜は長いんだし、聞かせてよ。その、君が嫌じゃなければだけど」
「・・・別に、嫌ってことはないさ」
アッシュが、何かを探すように窓の外に視線をやる。
英二になら、話してもいいかも知れない。
この混沌としたニューヨークに、あの時確かに存在していた彼女のことを。
これまで誰かに話す気にはならなかったけれど、不思議と相手が英二なら、話せる気がした。
いや、むしろ英二に知っておいて欲しいような気さえした。
「あいつは・・・・・・おまえが思うような普通とは、程遠い世界で生きてたよ」
静かなアッシュの声に、英二もまた静かに耳を傾けた。
ニューヨーク・シティ。
眠らない街。
真夜中を過ぎようとしているのに、時間など関係ないとでも言わんばかりに、窓の外はきらびやかな光に溢れていた。