• テキストサイズ

【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】

第2章 Requiem



昨晩銃撃戦の末に死にかけたことが、嘘のように平和な光景だった。

妙に穏やかな気分になるのは、目の前の少女がどこまでも自然体だからなのかも知れない。
俺が知ってる女はたいてい、俺を支配しようとするか、媚びてくるかのどちらかしかいなかったけれど、リサはそのどちらでもなかった。

「・・・あんたって変わってるな。俺が何者かも聞いてこようとしないし」

「私が変わった人間じゃなかったら、あなたは今頃逮捕されてるか、天に召されてると思う」

まだ凹んでいるのかリサは正論のような、そうでないようなことを言いながら、うつむき気味でサラダの海藻をつついている。

その姿がなんだか可笑しくて、同時に少し可哀想にもなり、フォークを置いて右手を差し出した。

「アッシュ」

リサが右手に気づいて顔を上げた。

「Ash(灰)?」

少し怪訝な顔をして見つめてくる。

「俺の名前。よろしく同級生」

そう言うとリサの顔がパッと明るくなった。

「よろしく、アッシュ」

ロボットのようにぎこちなく、白い両手を差し出された。
あまりのぎこちなさに戸惑いながら握ると、大切なものを触るようにそっと握り返された。

まるで、これまで一度も握手をしたことがないかのようだった。





・・・本当は名乗るつもりなんか無かったんだ。
もう二度と会うこともないはずだった。

だからこの時は思いもしなかった。
この二人とこの先も付き合っていくことになるなんて。


/ 166ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp