【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第10章 Shorter
朝起きるのは苦手だ。
いや、正確に言うと眠るのが苦手なのだと思う。
夢にうなされ、上手く眠れない。
人間は寝ている時に必ず夢を見ているらしいが、起きた時にはそのほとんどを忘れてしまうという。
それは俺の場合全くと言っていいほど当てはまらず、夢の中で味わった嫌な感触までもはっきりと覚えている。
それほどに鮮明な夢を見、その度に細切れのように目が覚める。
窓から微かな朝日が射し、暗闇が影を潜める頃になってから、やっとまともな眠りにつくことが出来る。
要は暗闇が怖いのかも知れない。
自分を取り込み、身動きがとれなくなるような気さえする暗闇が・・・
リサの瞳の色は、光のあたり方によって金に見えたり蜂蜜色に見えたりする。
夜でもまるで昼間のように明るくて、見ているとホッと心が落ち着く。
俺が起きる気配を感じるとこちらを振り返って「おはよう」と微笑まれた時、なんとも言えず穏やかな気持ちになれる。
苦しいだけの記憶も、忘れたい悪夢も、リサの顔を見れば和らいでいく気がした。
そんな日々も、もうあと少しで終わる。
リサがアジトで過ごす、一週間という区切り。
あと、一週間。
・・・あと、一週間・・・・・・
心の中で、まるで呪文を唱えるように繰り返すと、どんどん息が出来なくなっていくような気がした。
一週間後には、リサはもう、ここには居ない。