【BANANAFISH】Lullaby【アッシュ】
第8章 Lullaby
リサは瞳を閉じて、身体をふるわせるように歌っていた。
はじめは鳥肌さえ立ちそうなほど驚いたが、聴き終わる頃にはリサの奏でる心地良いメロディに心をゆだね、暖かい腕に包まれているような気分だった。
暗闇に優しいあかりが灯ったような。
凍りつく大地に春が来たような。
そんな暖かさだった。
歌い終わっても何も言葉を発さない俺に我慢できなくなったのか、リサは恥ずかしそうにこっちを見た。
「わ、笑わないの?アッシュ」
この歌で笑う奴なんていないだろう。
「・・・お前だったんだな」
「ん?」
リサはキョトンとして聞き返した。
「いや・・・てっきり天使が歌ってるんだと思ってた」
あの雪の夜の、屋上でのことだ。
幻聴だと・・・お迎えでも来たのだと、俺は思っていた。
「えっ?天使はアッシュでしょう?」
不思議そうな顔をしてリサは言う。
「あ・・・?俺が天使?何言ってんだ?」
「え?」
「え??」
「「???」」
俺たちの会話はどんどん噛み合わなくなって、二人して笑った。
リサの作り出す陽だまりのような空気に、少し前までの緊張はすっかりほどけて、眠気すら感じてくる。
「リサ、俺、眠い・・・」
「えっ?あ・・・アッシュ?」
リサが戸惑いの声を上げる。
「五分だけ・・・」
そう言ってリサの肩に頭をもたれた。
何だか、こうしてもリサは許してくれる。
そんな気がした。
グリフの肩以外にもたれて眠るなんて、きっと初めてだ。
赦されていると、そう感じた。
誰にも許されるはずの無い自分が初めて、まだこの世界に居てもいいのだと、そう言われているような気がした。
気のせいだなんて分かってる。
それでも、あとほんの少しだけでいい。
この温もりに包まれていたいと願った。