【BLEACH】Breath In Me【原作沿い女主】
第3章 Not To Remain Children
「行くよ。桜牙」
「ああ」
男が返事をするのを聞くと、女は名残惜しそうに少年の暖かな色をした髪の毛から指を離した。
「今、行くからな――一護」
そう彼女がつぶやいた次の瞬間――保健室から、二人の姿が忽然と消えた。
風に煽られてばたばたとはためくカーテンの隙間から、学校のグラウンドが見える。そこには数秒前まで室内にいたはずの彼らが、もう豆粒のようにしか見えないほど遠いところを歩いている姿があった。眩いばかりの銀髪を携えた少女が歩いているというのに、グラウンドを忙しなく走ったり横切ったりしている生徒たちは、誰一人として彼女に目をとめない。まるで、最初から彼女の姿がその視界に映っていないかのように。
素通りしていく生徒たちに、彼女もまた、いちいち目をとめるようなことはしない。見つめているのは前だけだ。前だけを見、強い足取りで進んでいく。
彼女は思う。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
私はどうすれば良かったんだろう。
その根元を、始まりの日を思うたび、怨恨の情は萎えることなく胸の底から吹き上がり、この身体を幾度となく燃え上がらせる。
でも、私はどこかで知っている。
この先には何もないのだと。あるのはただ、底のない真っ暗な穴だけだと。
――けれど、それでも、立ち止まることはできないと知っているから。
「暑いね、桜牙」
「……ああ」
彼女は空を見上げた。
夕陽を抱いて、憎々しいほど美しい虹色をした空が、夏のうねるような熱気の中で超然と輝いていた。