第7章 始まる物語
赤いグロスを塗り、最新作の香水を匂わせて。
荷物はスマホのみ。
ゆるいウェーブのかかった長い髪をした女の子がガラス越しにうつる。
(ひさしぶりかも…)
いつもは髪なんて邪魔だしおろしたりはしない。
そのせいか、今日はいくらか色気が感じられた。
街の中心にある大きな時計を見上げる。
大きな時計の針はチクチクと動いており、もう少しで小さな針が9時をさそうとしていた。
「あ、ひな」
声の方へと視線をやると、胸下の大きく開いたワンピースを着ているナミの姿があった。
ナミはひなの方へと手を振っている。
「ナミちゃん〜」
作り笑顔でナミに微笑み駆け寄っていく。
「髪長いの羨ましいなあ…」
ナミがひなに言う。
肩までしかないナミの長さからすればひなの髪は長いのだろう。
「ふふっ、じゃあいこっか」
そう声をかけると、深く頷くナミ。
(さて、お手並み拝見かな)
誰にも気づかれることのなく、ひなは笑みを浮かべ歩き出す。