第5章 幸せになれないマンドゥルゴ
時が止まったような感覚に襲われた。
見られてはならないものじゃないと思って生きてきた。
女なんて、性欲処理の道具としか思っていなかった。
だけど、ひなにだけは見られたくなかった。
昨日の俺は荒れていた。
ひなの言葉に一喜一憂。
ひなが悪いんじゃない。
ひなの言葉にいちいちかき乱されるほど、俺だけが好きなのが悪いだけだ。
「あっんっ…ぁっあっあ♡」
クチュクチュと音を立て、激しくしてやれば、それにふさわしい甘い響きが返ってくる。
もっと激しくしてくれとばかりに、喘ぐ女を見て、ひなのことを考えてしまう。
この女がひなだったら俺はこんなに適当なことはしないだろう。
この女がひなだったら。
ひなだったらどんな表情をするんだろう。
ひなは、どういう鳴き声をするのだろう。
「ロー…?」
酒を飲みすぎたのかもしれない。
目の前で驚いた表情を浮かべたひなが俺を見ていた。
幻覚か幻聴か。
ひなの声が聞こえる。
「…ひな?」
ひなの目が赤くなったのがわかった。
彼女は慌ててバーを飛び出した。
あぁ、幻覚なんかじゃない。
現実だ。
終わった。
ひなにだけは見られたくなかった。