第2章 山姥切国広の場合
「・・・泣くな」
山姥切さんの短い言葉が、彼を困らせている事を物語っている。
だけど、その中にも私を慰めようとしてくれているという気持ちを感じることが出来た。
「す、すみません・・・泣くつもり無かったのに」
涙を袖で拭い、佇まいを直す。
あまり山姥切さんに気にして欲しくないのと、純粋に気まずさがあったから。
「あんたのその言葉は・・・本心、という事でいんだな?」
まだ少し疑っているような口調の山姥切さん。
彼には彼なりの葛藤があるから、無理もない。
「急にこんな私の気持ちを信じろだなんて、難しいと思います。だけど、私の本心です。それと、きっとこれからもそれは変わらない」
「・・・俺が変わったとしてもか」
「山姥切さんが、変わる・・・?」
「ああ。そのうち折を見てあんたに話そうと思っていたんだが、丁度良い。いまここで話してしまおうか」
冷めきったお茶で喉を潤した山姥切さんは、急に真面目な目つきになる。
まさかという気持ちが私の心に広がった。
「既にこの本丸の中に、何振りかは己と向き合う為にここを離れ、修行をする為に旅立った者がいるだろう。既に帰って来ている者もいるがな」
「山姥切さん・・・もしかして・・・」
「あぁ。俺もら少しここを離れてみようと思う。ここのところずっと考えていた事だ」
予感は的中した。いつかはそうなるとは判っていたけれど、
いつか来るその日の為の心の整理を後回しにしていた分、私のお腹のあたりがずんと重くなる。
だけど、断る理由は無かった。
私が断れる理由も見当たらない。
山姥切さんは写しの身である己と向き合い、その先を見極める気だ。
山姥切さんは、急かすでも拗ねるでもなく、じっと真っ直ぐに私の瞳を見つめている。