第3章 蜻蛉切の場合
審神者の執務室で籠り切りで作業をしていた所為か、窓の外が異様に恋しくなる時がある。
バランスの良い三度の食事、綺麗に磨かれた本丸、いつでも入れる露天風呂。
豪華な施設が揃っているのは間違いない。
だけど、それでも息抜きに本丸の外へ出たくなることがある。
「あー・・・外の空気が吸いたい・・・」
椅子の背もたれに向かって伸びをすれば、ひょいと反対側から逆さまの蜻蛉切さんが顔を乗り出した。
「うわぁぁ!?」
「主殿、驚かせてしまい申し訳ありません。主殿が煮詰まっているようなので、自分がどうにかお力添えが出来ないかと・・・」
「・・・近所の万屋さんはさすがに飽きた・・・」
「そういうと思っておりました。あそこなどどうでしょう」
そういって蜻蛉切さんが指さした窓の向こうには、本丸の裏手の山道だった。
「あ、そういえばあそこって行った事無いけど、何があるの?」
「いえ、特にこれといっては。ですが、あそこはまだ、自分しか知らないと思われる場所です。天気の良い朝に早起きして誰もいないあそこから見る朝日が好きなんです。・・・流石に今日の朝日は過ぎてしまいましたが」
午後からの予定が決まった以上、必死で執務をこなす。
その間蜻蛉切さんは、ちょっとした山道もあるのでと私の分も支度を整えていてくれた。
何とか午後に外出できる程の余裕を作った私と、嬉しそうに微笑む蜻蛉切りさん。
かくして二人の秘密の場所への小さな冒険が始まった。