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最愛 【黒子のバスケ】

第8章 それぞれの場所


空港で黄瀬君たちと合流してから飛行機に乗って、いつもなら寝るはずの機内でも神経が過敏になっていて眠ることができない。

空港で間に合わせにボールペンを買ったからCAさんに適当な紙をもらって丸を塗りつぶす。
佐伯さんが乗っているはずないと分かっていても、人が横を通る度にびくびくしてしまう。

あたしはいつになったらあの出来事から解放されるんだろう…

仕事はほぼ休みなくしていて体はくたくたなのに眠れない。
北海道に着けば少しは安心できるのかな。

時計を見てまだまだ北海道にはつかないと分かってまた気分が沈んでいく。

自分の描いた丸をひたすら塗りつぶしてその作業にだけ集中する。
もっと黒くもっと黒くとひたすらボールペンを動かすけど人が多い機内で誰かが立ち上がっただけで体が小さくピクリとする。

“丸にだけ集中するの”って何度も言い聞かせてるのに思うように集中できない。

「みさきっち?」

突然黄瀬君に声をかけられてあからさまにビクッとしてしまった。

「あ、ごめん。びっくりさせたッスか?」

「ごめんね。ぼーっとしてて」

「いや、いいっスけど大丈夫?具合悪い?」

「そんなことないの。大丈夫。ホントに……大丈夫」

「…具合悪かったら言うんスよ」

「うん。ありがとう」

ダメ。クライアントにまで心配かけるなんて絶対ダメ。あたしはプロのメイクとしてお金をもらって仕事に来てるんだからそれ以外のことは考えちゃだめ


今日は撮影がないからホテルに着いたら少しゆっくりして落ち着こう。
とにかく明日からの撮影をしくじる訳にいかない。

あの時と同じ恐怖を感じたせいか、目を閉じるとあの時の光景が鮮明に思い出されて目を閉じるのが怖い。
またあたし眠れなくなっちゃうのかな...

スマホを出してさつきと美緒のメッセージを確認すると(ボールペンあったから預かっておくね。佐伯さんが渡してくれたよ)ってさつきからメッセージがきてた。

名前を見ただけで拒否反応が出てそのメッセージを削除してしまった。
だめ...吐きそう。

トイレに駆け込んで胃の中の物を全て吐き出した。ボロボロと涙が零れてシートベルトのサインが付くまでトイレから出ることができなかった




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