• テキストサイズ

虎の姉は猫となるか

第1章 探偵社


03

夕暮れになった。夜が近づいてくる。今日は満月か……敦は何をしているんだろう。
不意に動いた空気の気配に顔を上げると、いつの間にか事務所の中には幾人か人が増えていた。
あのキャスケット帽を被った男性も戻ってきていて、国木田が集まった人間の確認をしているようだった。

「全員集まったな。太宰が言うには今夜、虎が十五番街の倉庫に出現するらしい。先回りして太宰が待ち伏せしているはずだ」
「ふーん? じゃあ、妾たちも今からそこへ行くってことかい?」
「ああ。今から行くと丁度月が昇った頃になるはずだ」
「面白そうデスネー」
「あーあ、僕は出来れば行きたいくないんだけどねぇ」

少し考えた様に言葉を発したのは私の隣に座ったままだったらしい女性で、呑気な声をあげたのは麦わら帽子に繋ぎを来た男の子。
面倒くさそうに答えたのはキャスケット帽の彼で、文句は太宰に言えと国木田に言われて両手を挙げて肩を竦めていた。
全員が準備を終えて立ち上がると女性が私を抱き上げてくれて、国木田がやっぱり嫌そうな顔をするけど知らないふりをする。
そうして私は外を眺める。夕焼けがやけに毒々しい色で空を染め上げている気がする。
優しい女性の仕草に甘えて私はそのまま腕に収まると、車に乗せられて出発した。膝の上で丸まって大人しくしながら、私は過去を思い出す。
貧しい孤児院で敦は虐げられていた。院長先生はいち早く敦の力に気付き、その異常さゆえに先行きを問題視した。
そうして取った行動はとても人とは思えぬような酷いモノだったが、彼にはそれをやり切るだけの信念があるようだった。
そして、私には敦を支えるように、けれど決して手助けはしないように再三忠告をしてきた。何故? と、言われた当時は判らなかった。
だから守ろうとしていたけれど、歳を重ねるごとに気付くこともあった。

――いずれ敦は知るんだろうか?

その真意を、知る機会があるのかは判らないけれど、知ったとしても彼が敦に残した傷跡は大きい。

――ガタン!

「みゃっ?!」
「おっと……どうしたんだい?」
「ここからは歩いて行こう」
「ああ、それが良いデスネ」
「仕方がないね」
/ 8ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp