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虎の姉は猫となるか

第1章 探偵社


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「ちょっと! 私の弟に何してくれてんのよっ!」

とある飯屋から聞こえた声に漸く見つけた! と駆けこめば、視界に広がったのは大事な弟が見知らぬ眼鏡の男性に組み敷かれ痛めつけられている姿。
見た瞬間頭に血が上った私は後先もその前後の確認も取ることなく地面を蹴り、眼鏡の男の背に飛び込んでいた。

「何っ?!」

あわよくば体当たりでその身体を弟からどかせれば、そう思っていたが異能を使わずに男性を相手にするには非常に分が悪い。
案の定、簡単に交わされた挙句弟の横に落とされて押さえつけられてしまった。

「何をするんだ、貴様っ!」
「ね、姉さんっ?!」
「くっ……あんたこそ何してんのよ私の弟にっ!」

押さえつけ怒鳴られたくらいじゃ私の心は折れたりしない。今まで散々嬲られてきた男たちに、今更屈する気なんて一っ欠片もない。
睨みつけて言い返せば、不機嫌そうな顔がもっと不機嫌そうに歪んだ。ざまあっ! と思っていたら外から声がかかった。

「まあまあ、国木田君。君がやると情報収集が尋問になる。社長にもいつも言われるじゃないか」

声を掛けたのもやはり男性で、押さえつけられて顔を上げられないから見れないけど声だけ聴けば温和にも聞こえる。
けれど、私にはその声がどこか人を食ったように聞こえ、今私を取り押さえている男よりも警戒を厳しくしろと本能が囁きかけてくる。
とはいえ、持ちうる異能を使う訳にもいかない。能ある鷹は爪を隠すように、秘策は最後まで秘してこそ価値がある。
私が黙していれば温和な声の紡いだ言葉に嫌々ながらも妥協したのか抑えが緩み枷が外された。
身を起こすより先に、ひざまずいた誰かの足が見え、顔を上げると笑顔という仮面をかぶった男が私と弟を見ていた。

「それで?」

弟はその声に身体を震わせ、視線を逸らせながら硬い声で事のあらましを紡ぐ。
その内容は事実とは若干異なるが私が口を挟むところではない、ただ、その記憶に伴って思い出すだろう数々の言葉たちを思うと苦しくなる。
あの孤児院の人間たちは弟を御せない癖に私から引き剥がし、更にはその御せない力の前に怯え弟を悪鬼とし孤児院を追い出したのだ。
私を食いものにし続けた癖に、弟が居なければ言うことを聞く謂れはないので捕まえる手を振り払って弟と共に出てきたのは私の意志だ。
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