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小鹿の隠れ家

第1章 恋愛に至る道(出会いから恋に辿り着くまで)


01

「バンビ、バンビ!」
「っ?! お、お父様……な、なんでしょう……か」
「どうしたんだい? バンビ、そんなところに隠れて。今日はそんなお前に朗報だよ!」
「……ろう、ほう?」
「そうだ! さぁ、支度をしなさい。持っていけるモノは1つだけだ。しばらく家には帰れないからしっかりと考えなさい」
「あ、あのっ! ど、どういうっ?」
「さぁ、さぁ、準備して? でないと……」
「ひっ?! い、いってきますっ!」

その日、仕事中であるはずの父親が突然家に戻ってきたかと思えば、娘であるはずの佳乃子を呼びつけてたった一つを手に家を出るように申し付けてきた。
佳乃子は父親が苦手である。それでも意味不明な申し付けに理由を問うために頑張った。
いつからだったか、佳乃子はそこそこの対人恐怖症になっていた。人が嫌いなわけではないが、いざ目の前にすると初対面でも、何度会ったことのある人でも、それが例え両親であってもビクビクと怯えおっかなびっくりに言葉を返すようになっていた。
その原因は、実は父親にあるのだが誰もツッコミをしない公然の秘密である。

それはさておき、佳乃子は理由も判らぬままに立ったひとつを手にして家を出ていくことが決定となって慌てて自室へと走って行った。

佳乃子の本名は宮島鹿ノ子という。戸籍上の正式な名前だ。
母親が動けぬ間に面白がった父親が役所へ届け出てしまったのが原因ではあるが、狙ったわけでもないのに名前通り、気付けば鹿の子の様にふるふると頼りなげな足で立っているかのように人に怯える小さな子供が出来上がっていた。
とはいえ、そろそろ成人を迎える年齢であるはずなのだがそのピルピルとした怯え加減は衰えることを知らず、身長は隔世遺伝の様で高身長の両親の遺伝子を受け継がずにとても小さい。
こじんまりとした背丈に怯えの入った潤んだ瞳、物陰や母親の影に隠れている様子が小動物の様で学校では男子の格好のからかいの的となったのは言うまでもない。
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