第8章 年中行事〜母の日・父の日〜
「お恥ずかしい所をお見せしました...」
「気にしなくていい。偶にはああいう時間も大事だしな」
「...ありがとうございます」
恥ずかしくて縮こまりながらも感謝を述べる。再び優しい笑みで「玉狛まで送る」と言われる。「流石にそこまでお世話になれない」と返すも、「俺がそうしたいんだ」と言われてしまえば拒否出来ない。
暫く泣いていたせいで少々腫れてしまった目を、東さんの車に揺られながら保冷剤で冷やす。玉狛に着くまでに戻るといいが...。
「藤咲」
「はい」
「今夜の玉狛は騒がしくなるぞ」
「え、それってどういう...」
僕も質問は聞こえていないかのように、着いたぞと到着を知らせる。まるで、帰れば嫌でも分かるとでも言うように。
「送って頂き、ありがとうございました」
「これくらいお易い御用だ。話聞くぐらいしか出来なくて悪いな」
「いえ、聞いて頂けるだけで十分です。あの...またお願いしてもいいですか?...東さんに抱き締められてる時、その、凄く温かかったから...」
「あぁ、いつでもおいで。今度はお茶菓子も用意して待ってるよ」
くしゃくしゃと大きな手で僕の頭を撫でながらそう言う東さんの顔は、娘を思う父親のような顔だったと、後にシュウは語る。
東さんを見送り、目の腫れが引いたのを確認してからいつものように「ただいま!」と玄関を開ける。
『おかえりなさい!』
開けてすぐにみんなが出迎えてくれた。僕の帰りをずっと待っていたようだ。
「みんな揃って、どうしたの?」
「さっき東さんから連絡を貰ったのよ!明希が泣いているって!」
「東さんから?」
「そうよ!」
いつもの事ながら元気いっぱいの桐絵が説明してくれる。
いつの間に連絡したのか、全く検討がつかない。
「というわけで、今日は明希と迅と蓮琉のために!私達が3人のお母さんになるわ!」
「え」
「もちろん、修達もよ!」
チラッと修君達を見ると、少し戸惑いながらも「頑張ります!」と意気込んでくれた。
正直驚きが隠せないが、みんながここまでしてくれるのは素直に嬉しい。
ここで東さんが言っていた意味がやっとわかった。どこが話を聞くだけなの。それ以上の事を用意してくれてるじゃん。
思わずクスッと笑みが零れ、同時に先程のとは違う涙が零れる。
「ありがとう、お母さんたち」