第8章 闇
カカシは、気を失った花奏を見て、小さく ため息をついた。
やっぱりバレていたか……。
苦い薬を飲んだみたいに、
表情をしかめた。
花奏は、いつも、
カカシの嘘を見抜いた。
きっと、言い方や仕草、
どこかに癖があるのだろう。
「……だから最後、泣いたか」
涙を流した花奏。
オレに嘘をつかれて、泣いたのか?
……そうであれば、バツが悪い。
カカシは、
嘘をつくと、バレる仕草があることは、昔から知っていた。
『あ、カカシ、いま嘘ついたーー』
ケラケラ笑う花奏を見るのが、心地よかった。笑う花奏を見るのが、好きだった。
だから、その癖を突き止めて、わざわざ直そうとは、あえてしなかった。
花奏の前では、
自分の姿を、
正直に見せた。
悪い面も良い面も、
飾らないで、ありのままを見せようと、決めていた。
「わかった」とオレは言った。
そばにいてやれない。
それなのに、口から出た言葉は、
真逆の答えだった。
花奏のオレを見る目が、縋るような、子どもが親を求めるような、
行かないで……と訴える瞳だった。
だから、
どうしても、本当のことを
言えなかった。
これ以上、悲しみを、
背負わせたくなかった。
小さな花奏を、すっぽり覆うように、後ろから抱きしめて、カカシは言った。
「花奏、気づいてやれなくて悪かった」
暗部ろ班隊長は、部下の健康状態も把握しなければいけない。花奏が少し様子がおかしいと、戦闘のとき、カカシは思った。
戦う姿を最初見たとき、いつものキレがない。 どこか無理をした戦い方だった。
花奏が、体調不良を訴えない。ならば、そこまでひどくないと、自己完結を下した。
自己決定、自己判断を誤った。
カカシは、
奥歯を噛み締めて、目を閉じる。
真っ暗な後悔の渦のなかで、
静かな声で言った。
「花奏……そばにいてやれなくて、ごめんな」
規則的な吐息で身体が動く。柔らかで、するりと流れる髪を撫でた。