第5章 出発
「っ!?」
風邪を引く前の症状が身体を覆う。
軽い頭痛。眠気。停滞感。
腕を肘から曲げ、回しながら確認した。今日の任務に支障が出るほどの問題では無い。
私が風邪を引くなんて1年、2年ぶりだった。前回は連勤明けで土砂降りの雨の中帰ったせいか、翌日高熱にうなされた。
自己管理能力の低さに思わず嘆いてしまう。
ろ班隊長に言わないとマズイだろう、と名を呼ぼうと口を開ける。
「……カ……」
横を走るカカシは、木の枝を跳び越えながら、肩に掴まるパックンと小さな声で話をしていた。
「何日働き詰めだ?いい加減休め。ぶっ倒れても知らぬぞ」
「まだ、いけるでしょ、これぐらい。今日は2時間寝たし、大丈夫だって」
「カカシ、お前はロボットではないんだぞ?いつか壊れるぞ」
パックンの言葉に鼻で笑うカカシが、目線を向けていた私に気がつく。
「どうした、花奏?」
大木の枝を跳びながら聞くカカシ。狐面を向けて、不思議そうに頭をひねる。
風邪を引いたかもなんて、言えない。
無理をして、頑張っているのは皆同じ。最近特に忙しい。暗部が駆り出される事が多い。
テンゾウ、イタチは三連勤中。私は二連勤中。カカシは……7連勤中。
風邪を引いた。
任務に支障が出るかも。
泣き言は今、簡単には言えない。
ハギも行きたがっていた大事な任務。仇を打つ為に向かう任務。自己管理がしっかりと出来ていれば問題無かった。
大丈夫。少し気怠さがあるだけ。頭痛も我慢出来ない痛みではない。
今日が終われば明日は休み。多少無理をしても問題では無い。小さく兎面の中で口を一度閉じた。
「ううん。何にも……。カカシ、今の話聞こえたよ?大丈夫なの?疲れてないの?」
少しカカシが黙る。
「多少疲れが取れてなくても、支障は無いよ。明日休みだし、終わればゆっくり寝るからな」
大丈夫。問題無い。
気を張れば乗り切れる。
「うん、そうだね」
声を明るく出し、足に力を入れて前を走った。