第18章 うちは一族として
イタチは現場に戻らなかった。そのまま街を抜けて阿吽の門につく。
ボロボロと涙を滝のように溢した。号泣に近い。普段ここまで感情的にならない男が泣き叫んだ。
先ほど、3代目に密かに会い、伝えた。
サスケを頼み、事実を伏せることを。
そして…今までの感謝の意を。
「早く…行かないとな……」
同胞を殺し、すぐに
木ノ葉隠れ里を抜けなければならない。
イタチは無念しかない。
父を。母親を。友人を。同胞を…
すべて失ったのだから。
行こうと足に力を入れたときだった。
微かな泣き声が聞こえたのだ。
振り返ると、あり得ない人間がいた。
擦りむけて血が滲んだ女の子がこちらに向かうのだ。
どこから、どうやって
ここまで来たのかわからない。
イタチは鼓動が早まる。
「花奏さん!!」
裸足でパジャマで、
どうやってここまで…??
小さな肩を掴んだ。ガクガクと寒さで震える体に、イタチ自身のコートを羽織わせた。
「なぜ、あなたがここに!」
上から下までみたがズタボロだ。
体中が擦りむけて怪我をしている。
どうして来てしまったんだ……。
オレとサスケのやり取りで
目が覚めてしまったのか。…
「イチャ……」
花奏は、ふにゃりと笑った。
しゃがんだイタチを見て安心したのか、涙目の笑顔に変わる。なんで…来ちゃいけないのに。屈んだイタチの身体を、ぎゅうと花奏は抱きしめた。
イタチの弱った心に鞭が打たれる。
だれにも弱い己を見せていない。
唯一、見せていたのが、
小さくなった花奏にだけだった。
柔らかな愛おしい肌に触れた。
冷えて凍えている。
「花奏さん、手当てをしよう。そのあと、だれかに見つけられやすい場所に送るよ」
どうやって来たのか分からない。
瞬身の術……?
それしか考えられないが、1歳ぐらいの子どもが発動させることなど、出来るはずがない。いや……薬が、戻ってきている可能性もある。
イタチはコートを掛けた体を引き寄せ、抱きしめて風が通らない壁際に寄った。
あいにく、今日は門番がいない。
偶然にしては行き届く配慮に、乾いた笑いが出た。
まさに、
イタチを逃す為に門番がいないのだ。