第1章 理解(手下/マルフィ)
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「貴方はひどい人。」
「それはお互い様だろう?」
向かい合ったソファーの上で交える瞳はどちらも光は灯っているものの、その中身は深海のように深く暗い。
啜る紅茶の味は確かカモミールだったか。
どうにもこの味は好きになれないと一口飲んでからカップを置く。
「私を弄んで楽しいの?」
「君こそ私のことを見てくれない。」
「見てるよ。」
「いや、今も他のことを考えている。」
「よくわかったわね。正解。」
ふうと息をついて視線を逸らせば、外はいつの間にか夕焼けに染まっていて、いつもの日常風景も神秘的な雰囲気に変わる。
夕日の眩しさに思わず目を瞑るけれど、瞼を通り越して光は届くようで、眩しいのは変わらなかった。
「何を考えているんだい?」
「さぁ、なんだろうね。」
「君ははぐらかすのだけは一人前だ。」
「お褒めの言葉、光栄です。」
からかうように私が笑えば、彼はほんの少しだけ目を細めてみせる。
...嗚呼、その目だ。
貴方のその目も、行動も、考えることも全てがいけない。
貴方は悪い烏の癖して実はとんでもないくらいに優しいのだ。
なにかとエスコートをして来たり、転びそうな階段では手を差し伸べてくれたり、はたまたそれを見ず知らずの女性にまでもやってしまうのだから余計にいけない。
「貴方だって私だけを見てくれない。」
「いいや、君だけを見てるよ。」
「はい、ダウト。」
「何故わかる?」
「わかるの。私は面倒な人だから。」
私も少しだけ睨みつけるようにしてみつめれば、彼はらしくもなくため息をついた。
静まり返る空間になんだか落ち着かなくなって来たので、嫌いではあるが喉を潤すためだけに紅茶を一口。
独特の風味が鼻を抜ける度に眉をひそめてしまうのは辞めたいけれど、嫌いなのだから仕方がない。
「ほらね。溜息をついた。」
「君がわかってくれないからだ。」
「いいえ、私を面倒な女だって認識した。」
「君は自分のことをまるで理解しようとしない。」
「ええそうね。嫌いだから理解なんてしなくてもいいの。」
自ら嫌いな人について追求しようとする人なんて変わってる人しかしないわ。と心の中で付け足しながら、視界にちらつく自分の髪の毛を耳にかける。
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