第6章 戦争
「え?は…はあ」
「街の広場の鉄杭のことはご存知ですね?暗殺者の肛門から口まで杭を突き立てて、死体を見せしめにしました。いつもならせいぜい3日ほどで下げるのですが、あの時は雨風で死体が朽ちてもなお掲げたままで。ご自身で何度も広場まで確認しに行っては、蛆のたかる死体を見て『ざまをみろ』と言っていたものです」
「は…」
「まあ、何だかんだで首謀者も見つかりました。閣下はたいそうご立腹でしたから、本人だけでなく一族郎党…つまり、妻子や使用人に至るまで全て捕らえましてね。いつも通り串刺しを命令されたのですが、杭が足らんのですよ。今、処刑の順番待ちが出来ている状態です。初めてですねここまでのことは」
「…」
「ご存知でなかったようですね」
「…ハイ」
ウキウキ気分もどこへやら。一気に気持ちが沈みこんだ。
あの暗殺者の、したいを…いや、考えたくない。
「知っておいた方がいいと思いましたのでね、伝えさせていただきました。あの方と今後も共に居たいのならば、こういうことに耐えられねばいけませんよ」
「ハイ…ハイ。大丈夫です」
青ざめてうつむいたまま、人形みたいな受け答えをする私を見て、男性はため息をついた。
「7日後、閣下が戦から戻られます。戦争というものは人間の感情を昂ぶらせるものです。特に閣下はその傾向がお強い。覚悟して、強く覚悟して待っていなされ」
そう言って、男性は去って行った。
私はしなびた花の花瓶を持って、しばらく立ち尽くしていた。