第6章 戦争
「あの、お怪我などは、お体は、無事でしょうか、何事もなく」
「お怪我などは一切ないそうです。さすが戦上手でいらっしゃる」
「まあ…よかった…!」
私は人目も忘れてキャッキャとはしゃぎ立てた。
ヤーシュ様がお帰りになる。なんの怪我もなく。
よかった、本当によかった!
「…ずいぶんなお喜びようですね。閣下のご帰還が嬉しいですか」
「もちろん!」
「そうですか。よかった、ようやく決まりそうですね」
「はい?」
「いえ、いやあ、閣下付きの使用人がこれほど長く勤められたのは初めてですので」
「ああ…そうですね。何度も募集しなおしてましたものね」
「みな、あの人の苛烈さに付いてこられないのです。恐ろしい方ですからな」
「そ…そんなことありません、ヤーシュ様はお優しいです!」
私も館に来るまでは、ヤーシュ様のことを冷徹非道な流血公爵と罵っていたけれど、そんな過去は都合よく忘れることにした。
「そう…ですね。閣下もあなたを深く愛していらっしゃるようだ。初めてですよ、こんなことは」
「まあ…そんな。そうですか?えへ」
愛している、とハッキリ言われて悪い気はしない。思わず頬がゆるんだ。
「いつだか暗殺者があなたを襲った時も」
「あ、ええ、はい」
ウ…、あのことはあまり思い出したくないんだけどなあ。
「閣下のお怒りは凄まじいものでしたよ。あの方は命を狙われたのは1度や2度ではないので、いちいち気にされたりしないのですがね、普段なら。あの時はあなたを怖い目に遭わせたとのことで、ひどくご立腹で、暗殺者を殺してしまったのを後悔していました。生きていれば拷問して首謀者を吐かせたのに、と」