第7章 6day
きゅっ、と胸が苦しくなった。彼の口から出る甘い言葉が耳に慣れない。けれど嬉しくて堪らない。
この人について行くと、決めたのだ。迷う理由などひとつも無い。トラファルガーを愛したいし、愛されたい。この感情を、無かったことにはもう出来ない。
は両腕を彼の背中へ回し抱き着いた。
「…はい。お兄ちゃん、私はローと一緒に地上に降ります。会えなくなるのは寂しいけどこの人が好きだから。ローと離れる方が、辛いの。」
そう口にしたにトラファルガーは満足気に口角を釣り上げる。ユアはその言葉を聞くと苦々しげに表情を歪めたが、細く長い溜息を吐き出しポケットの中を漁った。
「はぁ……可愛がってた妹をまさか地上の人間に持って行かれるとは思ってもみなかったよ…。」
「フフ、悪いな。」
「思ってねーだろ。ほら、。」
「…?あ、写真!」
ポケットの中から取り出されたのは写真だった。幼い頃のと、兄、両親が楽しそうに笑っている。そんな写真だ。
「持っていけよ。それとこれも。」
一緒に手渡されたのはピアスだった。三日月の中は真っ青でまるで海の色のように綺麗なピアス。1つは兄が付けている。
「お兄ちゃん…。」
「ガキが出来る前にこの男と別れたら真っ先にここへ戻って来いよ。暫く仕事はオレが受け持ってやる。」
「別れねェ。」
「うるせえ、わかんねーだろうが。」
ふん、と鼻を鳴らしトラファルガーを睨む。しかし直ぐにへ向き直り優しく笑って頭を撫でた。その掌はトラファルガーとは全然違う。小さい頃からいつも触れていた優しい掌。の瞳には無意識にじんわりと涙が浮かぶ。
「…ありがとう、お兄ちゃん。」
「元気でやれよ。」
「うん!」
はポケットへピアスと写真を仕舞った。そしてトラファルガーの手を握る。
「バイバイ。」
「じゃあな。」
「ロー、降りますよ。手しっかり掴んでて下さいね。」
「あぁ。」
トラファルガーが頷いたのを確認すると今度はプールへ飛び込むようには雲の下へと潜り込んだ。時折翼をはためかせ落下速度を調整しながら再び青い海へと向かう。
「…親に会わなくて良かったのか?」
「はい、両親に会ったら多分泣いちゃいますし。お兄ちゃんの顔が見れただけでも充分です。」