第8章 仲直り
部屋まで私は腕を引っ張られ続けた。しかし彼は、部屋に入ると私の腕を離し、背を向けたまま立ち止まる。怒っているのか、背中からは表情を読み取れない。
すると急に振り向いてきた。
私はとっさに目をつぶった。
「君はああいう年下の男が好みだったの?」
「へ?」
私は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「だったらインキュバスは変身能力もあるから君の好みの姿になれるよ!」
「えっちがっ」
言うやいなや目の前のバックスがみるみるうちに幼くなる。そしてケルスと同じくらいの年齢に見えるようになった。
「どう?」
一段と顔を寄せられ、私は思わず顔を背けた。
2人の間に少し沈黙が流れる。
「…ていうか、逃げたこと怒らないの?」
「え?」
今度は彼が間の抜けた声をあげた。
「いやそれは俺が悪いから…。」
彼は俯き気味になる。
「?あんたが悪いってどういう意味?」
「ホントは君気づいてたんでしょ?君のこと抱かないって約束したあの夜、君が寝ている間に……キスとか色々しちゃったこと…。」
「えっ!?」
本当はどういうことなのか問い詰めたいが、申し訳なさそうに上目遣いする年下姿の彼に少し後ろめたさを感じ、思いとどまる。
「だって君があんな格好で無防備に寝てるから…我慢出来なくてつい…」
相変わらずの許しをこうような瞳で見つめてくる彼に私はため息をつく。そんなにスピーディーに約束が破られていたとは思いもよらなかった。
しかし今、身体を切なさで支配されている私には、なんとなく許すことができそうだった。抱きたくて抱きたくて仕方のない衝動を彼は必死に押さえ込んでくれていたのだろう。
「もういいから、元の姿に戻って。」
「え?こっちの方が好みじゃないの?」
「好みじゃないし、弟みたいで嫌。」
「そうなの…。」
彼の姿が元の姿に戻っていく。