第7章 逃走
「ここよ。」
チュンランの手が離れ、私は顔を上げた。
そこはこじんまりとした小屋のようだった。どうやらキッチン兼ダイニングルームのようだ。
「いないわね。まだ寝てるのかしら。」
彼女は雑然とした部屋を見渡した後、奥に少し見えている部屋に向かって歩きだす。
「ケルス!起きなさい!」
「チュンラン!?急にどうしたの!?」
「いいから来なさい!」
明らかに強引な素振りで、彼女は1人の少年を連れてきた。メガネをかけた茶髪の少年だ。年はチュンランくらいだろうか。
「ケルスよ。」
彼を指さしながらそういった。
「チュンラン、このお姉さんは…」
少年は戸惑いながら彼女に尋ねる。
「悠子よ。バックス様から逃げ出したいらしいからあんたに預けようと思って。」
「バックス様から?この人が?」
「そうよ。きちんと面倒みなさいよね。」
どうやら彼女が「なんでも言うことを聞く人」というのはこのケルスという少年らしい。
「じゃぁ私は怪しまれないようにすぐ帰るから。あとは2人でよろしくね。」
「えっ?ちょっと!」
私は彼女を引き留めようとするが、「あんまり長く屋敷を空けちゃうとバレちゃうでしょ!」と言って、すぐに壁に描かれた魔法陣の中へと消えていった。
私は初対面の少年と取り残されてしまった訳だ。