第2章 出会い
「ん…」
沈んでいた意識が浮上し、周りの景色がぼんやりと見えた。
---わたしは…一体…。
私はどうやらベッドで寝ていたようだが、やけに豪華なこのベッドに、全く覚えがなかった。
とりあえず体を起こすとそこには1人の男がいた。
ベッドに腰掛け暗い窓の外を眺めているらしかった。
私は頭がまだ追いつかないこの状況に、とりあえず男から距離をとろうと考えた瞬間に男は振り返った。
「あ、起きた?」
その男は金髪に真っ赤な瞳をした美形だった。
私は思わず、息を呑んだ。しかしすぐに我を取り戻す。
「貴方は…?」
「俺?俺はバックス。」
「バックス…さん…?」
私はとりあえず理解できた部分をまるで初めて言葉を覚えた子供のように繰り返した。
「そうそう。よろしくね。」
人懐っこい笑顔が印象的だった。
「あの…すみません。ここはどこなんですか?」
「ここは俺の家で、これは俺のベッド。」
どうやら人様のお家にいつの間にかあがりこんでいるらしい。信じられないような出来事からの記憶が無い。
「すみません。あまり覚えてなくて…どうして私はここに?」
「じゃぁ最初から説明するね。」
そう言って男は語りだした。
「まず、君は俺が作った魔法陣でここに連れてこられた。ここは君達の世界でいう魔界だ。そして俺はインキュバス。つまり…」
そこまで言って男の笑顔が消え、言葉も止まる。しかし何故か私には何か言うことはできなかった。その間に男は、おもむろに私の頬に片手を添えた。
「君は俺の生きる糧になる、ってこと。」
ホラー映画でよくある人間が怪物になる瞬間の映像が男の顔にダブった。
固まった私に男はフッと笑ってみせる。
「そんなに怖がらないで。別に死ぬわけじゃない。」
そして男はもう片方の手も伸ばし---------私にキスをした。