• テキストサイズ

魔界の夜

第1章 旅立ち


海沿いに電車が走る。

ガタンゴトン、ガタンゴトン。

線路は二つ並んでおり、隣の線路に小さな電車の影が見える。その影は瞬く間に近づいてきて、ゴウッという音を立ててすれ違った。
彼女はそんな様子を窓際に肘をかけて眺めていた。
股の間にはトランクを挟んで、誰もいない向かい側の席に向かって足をのばす。

駅員のアナウンスが車内に響く。電車が駅にとまり、彼女も席を立った。

駅を降りると見知らぬ景色が広がっている。

大きな木枠の案内地図があり、イラストを使って分かりやすく説明してあった。
顎に手をあてて「ん〜」とうなった後、彼女はガラガラとトランクを引いて歩き始めた。

平日の昼下がりのためか、人通りはあまりなかった。
彼女は目当ての施設を見つけ、その様を見上げる。
2、3秒見上げた後、その施設へと入って行った。施設の入り口には「〇〇図書館」と書かれた金属看板がつけられていた。


中はしんとしており、人はそんなにいない。
その中にガラガラとトランクをひく音が響き、彼女は少し緊張した。しかし、手放す訳にもいかず、そのままカウンターの図書館員をやりすごし、紙の匂いが漂う本棚ゾーンへと向かう。

彼女はあてもないように本棚の間をぬい歩く。一冊だけ本を手に取ると、その後はしばらく歩くだけだった。もうすぐ行き止まりかというところで、何冊か本を手に取る。そして行き止まりへとたどり着いた。

その図書館の行き止まりは、どういう理由でそうなったか分からないが、壁の一部分だけが凹んだような通路で終わっていた。その細い通路の両脇に本棚が置かれており、その向こうは手前の壁と同じ色の壁が薄暗く広がっている。彼女はそこへ足を運んだ。

その時だった。

壁の方向からビュゥッと突風が吹いた。

「なに!?」

彼女はとっさに片腕を顔に覆うようにして、風を防ぐ。そしてなにが起こったのか確認しようと目を開けると次はまばゆい光に襲われる。

「なんなの…」

目をこらして見たものは、赤い赤い光を放つ魔法陣のようなものだった。そして彼女は男の声を聞いた。

「…我は汝を求めるものなり…」

その声が聞こえた直後、大きな力で彼女の体は引っ張られた。彼女は悲鳴を上げながらその魔法陣へと吸い込まれ、魔法陣は一気に小さくなり、そして、消えてしまった。
奇妙な行き止まりには、数冊の本が床に残されるのみであった。
/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp