第3章 『お世話』
自分の部屋に戻ってくると世話係が扉の前に立っていた。
「おかえりなさいませ。お嬢様。」
「近づかないでください。」
私は礼儀よい世話係の前では足を止めず、そのまま部屋に入る。扉を閉めるのを世話係に遮られてしまうが、それ以上近づくのが嫌で私はドアノブから手を離し、ベッドへ向かう。
「ご安心ください、お嬢様。バックス様から身体チェックのようなことは禁止されました。」
そう言われて少し考えて合点がいった。
「…もしかしてあなたもインキュバスなの?」
「ええ。まぁそのようなものです。もう少し下等な身分ですが。」
つまり、この人も人間の女性を生きる糧としているわけだ。だからあの身体チェックが「つまみ食い」と言われていたのか。
「とにかく近寄らないで。あともう寝るわ。」
「かしこまりました。寝巻きをベッドサイドに置いておきました。御用がある時はなんなりとベルを鳴らしてお呼びください。」
世話係はあの強引さが嘘のようにすっと引き下がっていった。
ベッドの横のテーブルには世話係が言った通りにネグリジェとベルが置かれていた。
私は色々な感情が整理できないままも、着替えて眠りについた。