• テキストサイズ

魔界の夜

第9章 恋心


現れたのはバックスだった。
つい顔を背けると、世話係はその間に縄を持って、彼に会釈し、部屋を出ていった。

部屋には私とバックスだけになり、沈黙が流れる。

「悠子…」
「な、なによ。」
「ごめん…。すぐに助けられなくて…。」
「もういいから。出てって。」

胸がざわついている。そのざわつきを否定するように私は彼に背中を向けると、彼は背中から私を抱きしめた。

胸のざわつきが大きくなっていく。

「怒らないで。君に嫌われるの嫌なんだ。」

胸のあたりが切なくなる。でも同時にさっき見たミクチャとの光景が頭の中に蘇る。

「別に私に嫌われても、ほかの女の子がいるでしょ。」

そう言いつつ彼の腕を振り払えないのは何故だろうか。

「他の女の子といても君の顔ばっかり浮かんでくるんだ。」

胸がギュッと苦しくなった。

でも頭の中にはさっきのミクチャのことが焼き付いて離れない。

私は彼の腕から逃げ出した。振り返って彼と距離をとる。

「嘘つき。皆に同じこと言ってるんでしょ。」
「言ってない。」
「なら……!」

頬に一筋の涙がこぼれた。

私はそこでつい口をつぐんでしまう。
/ 116ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp