第9章 恋心
現れたのはバックスだった。
つい顔を背けると、世話係はその間に縄を持って、彼に会釈し、部屋を出ていった。
部屋には私とバックスだけになり、沈黙が流れる。
「悠子…」
「な、なによ。」
「ごめん…。すぐに助けられなくて…。」
「もういいから。出てって。」
胸がざわついている。そのざわつきを否定するように私は彼に背中を向けると、彼は背中から私を抱きしめた。
胸のざわつきが大きくなっていく。
「怒らないで。君に嫌われるの嫌なんだ。」
胸のあたりが切なくなる。でも同時にさっき見たミクチャとの光景が頭の中に蘇る。
「別に私に嫌われても、ほかの女の子がいるでしょ。」
そう言いつつ彼の腕を振り払えないのは何故だろうか。
「他の女の子といても君の顔ばっかり浮かんでくるんだ。」
胸がギュッと苦しくなった。
でも頭の中にはさっきのミクチャのことが焼き付いて離れない。
私は彼の腕から逃げ出した。振り返って彼と距離をとる。
「嘘つき。皆に同じこと言ってるんでしょ。」
「言ってない。」
「なら……!」
頬に一筋の涙がこぼれた。
私はそこでつい口をつぐんでしまう。