第1章 IF:【冬春】エース救済・主人公生存
「なぜあの兄弟を逃した!!?」
「ぐっ……!!」
赤犬を押せたのは最初の一撃だけ、はそれ以降赤犬の猛攻を防ぐしかなかった。
質問する気あるのかこの人!?答える暇なくぶん殴ってくるじゃん!?
立ち上るマグマの柱が赤犬の怒りを表している。死への恐怖か、純粋な暑さか、身体中から汗が吹き出る。
「…まぁいい、お前さんのことは随分前から気に食わんかった。甘っちょろい正義掲げて、一体何人の海賊を取り逃がした?」
「はぁ…は、じゃああんたは、何人の一般市民を…見殺しにしたん、ですか」
「正義のための必要な犠牲じゃ」
正義のための必要な犠牲?必要な犠牲ってなんだよ。あの妊婦たちも、その家族も、必要な犠牲だっていうのかよ。なんの犠牲だよ。
グツグツ、マグマの煮えている音が、の怒りと呼応する。の原点、怒りと悲しみが当時のようにぶり返す。
「正義のために、犠牲を払わなきゃならんのなら、そんな正義いらない…!!」
「なら死ね!!」
最初からそのつもりだよ…死んでもエースを逃す。
エースは焦っていた。インペルダウンでのあの様子、更に自分のルフィの間に割り込み赤犬と応戦している事実。
「エース!?どこ行くんだよい!船はあっちだ!」
「放してくれマルコ!あいつと…!あの人と俺は話さなきゃならねぇ!!」
「あの人!?誰だよい!っ、まずい黄猿が来た!早く船へ走れ!!」
マルコに腕を掴まれたエースは振っても振りほどけない腕をもどかしく思う。そんなとき、一際大きなマグマが立ち上った。
あの人は、今ひとりで赤犬と戦っている。海軍を敵に回してまで、何のために…俺のため…?あの人の考えてることが何1つわからない。
エースは体を火に変え、マルコの手から解放される。エースの名を呼ぶマルコを背に、離脱した戦場へと急いで戻る。
「能力者でもない、一介の中将が…わしに勝てるわけ無かろうが…」
地に伏せる女。生きているのか死んでいるのか、ピクリとも動かない。正義のコートは熱で溶け、深い青色のスラックスなど見る影もなく、全身にひどい火傷を負っていることくらい一目でわかる。
「………ま……し、な…」
女から小さな声が聞こえた。周りの喧騒に掻き消されるほどの小さな掠れた声。
エースを逃すまで、まだ死ねない
エースは身体が勝手に動いていた。
